赤土条例の効果で、海は良くなったか?

ページ番号1004464  更新日 2024年1月11日

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2003年8月作成

はじめに

沖縄県では、赤土汚染問題の解決に向けて1995年10月に沖縄県赤土等流出防止条例(以下、赤土条例と称す)が施行され、面積1,000平方メートル以上の開発工事には赤土等流出防止対策の規制がかかるようになりました。ときおり、「赤土条例ができて沖縄の海は良くなったのですか?」という質問を受けます。そこで、沖縄沿岸の赤土等のたい積状況を、赤土条例施行前後で比較してみました。

赤土等のたい積を調べるSPSS簡易測定法

当研究所では、海底の砂(以下、底質)を取ってきて、赤土等のたい積の度合いを調べる簡単な方法を考案しました。これは、底質中懸濁物質含量(SPSS)簡易測定法と呼ばれ、SPSSの測定データは1983年から蓄積されています。この方法ではペットボトルなど手に入りやすい器材を用い、簡単な操作で科学的なデータが得られるので、県の赤土汚染調査から小学校の環境教育まで幅広く用いられています。SPSS測定値と底質のようすなどはよく対応しており、底質のようすに応じて測定値をランク1(定量下限以下)~ランク8(田んぼのように泥で覆われる)に分類しています。

比較データの整理

1983年11月~2002年2月の約20年の間に、沖縄の各地で測定された3,523件のSPSSのデータをまとめて一覧表を作りました。そして、1983~1995年を赤土条例施行前、1996~2002年を施行後として分類しました。赤土等のたい積状況が、季節によって大きく変動する海域もあるので、赤土条例施行前後に同じ地点で同じ季節に測定されたデータを選んで抜き出しました。抜き出したSPSSのデータは、沖縄県内29市町村、309地点、赤土条例施行前844件、施行後789件、計1,633件でした。1地点で2個以上の測定データがあれば平均値を求め、赤土条例施行前後の309対(地点)の比較ができるように整理しました。

地図:沖縄県内の調査ポイント

沖縄県全体、地域の比較結果

沖縄県全体のSPSS平均値は、施行前が45.5kg/立方メートル、施行後は36.3kg/立方メートルで20%減少しました。また、県内を伊平屋・伊是名村、沖縄島北部、沖縄島中南部、久米島町、慶良間諸島、宮古諸島、石垣市、竹富町の8地域に分け、SPSS平均値を求めました。赤土条例施行後において、SPSS平均値が最も低いのは慶良間諸島の7.3kg/立方メートル、最も高いのは石垣市の50.4kg/立方メートルでした。

グラフ:赤土条例施行前後におけるSPSS平均値

開発事業からの赤土等の垂れ流しは大幅に減った

SPSSが400kg/立方メートル以上になると、海底は砂を確認できないほどすっかり泥で覆われます。SPSS簡易測定法では、このような極端な赤土等のたい積状況のことをランク8と呼んでいます。今回比較検討を行った309地点のうち、一度でもランク8のレベルまで赤土等がたい積したことがあるのは、赤土条例施行前では55地点、施行後は31地点でした。海底がランク8になった主な原因を下のグラフに示します。「地形・地質」とは、羽地内海や塩屋湾のように極めて閉鎖的で、台風や冬の季節風が吹いてもあまり波が立たず、たい積した赤土等がほとんど移動しない地形などや、中城湾のように周辺にクチャ(泥岩)が分布し、自然に泥の干潟ができやすいことを指しています。赤土条例施行前は、開発事業が始まると下流の海ではランク8になるまで赤土等がたい積する光景がよくみられました。赤土条例施行後は、そのような赤土等の垂れ流しがずいぶんと減ったことがグラフから読み取れます。一方で、赤土条例施行前は開発事業の影に隠れて目立たなかった農地からの赤土等の流出が明らかになってきました。

グラフ:赤土条例施行前後のランク8出現要因(ランク8:海底がすっかり泥で覆われて砂が見えない状態)

農家が土壌流出防止対策を取りやすいような制度作りを

赤土条例施行後は、海域の赤土等たい積のレベルが20%ほど改善していることがわかりました。しかし、農地からの激しい土壌流出は県内いたるところで見られます。農地からの土壌流出防止対策についてはいろいろな方法が考案され、県や市町村でも普及に努めていますが、費用や時間、労力がかかる割には、直接、収入に結びつかないので、流出防止対策を積極的に行う農家はまだ一部です。環境先進国では、農家が環境にやさしい対策をとれば、助成金を支払う制度があります。赤土汚染問題でも、このような制度を作ることができたら、農地からの土壌流出は少なくなり、沖縄の海はもっときれいになることでしょう。

写真:農地

写真:海底


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