沖縄におけるクジラの現状などを専門家の立場から書いていただきました。
国営沖縄記念公園水族館館長 内田詮三
 ザトウクジラは海洋を大回遊する航海者だ。夏は高緯度海域で豊富な餌を食べ、冬は暖かい低緯度地域にやって来て繁殖をする。
 北太平洋で云えば、夏はアリューシャンやアラスカなどの北の海で餌をたっぷりと食べ肥え、太る。秋には、南下を開始、太平洋の西側では沖縄、小笠原にもやって来て、冬から春を過ごす。ここでは、繁殖するのが目的であり、晩春には再び餌場である北の海を目指す。生まれた赤ん坊クジラを連れた母クジラは授乳をしつつ北へ帰る。
 夏の餌を食べる海域でも、南の繁殖場でも岸のすぐ近くで過ごす習性とゆっくりとした遊泳速度がザトウクジラにとって不幸の元となった。つまり、一昔前の手漕ぎボートと手投げ銛の捕鯨でも簡単に捕獲されてしまったのである。まして捕鯨砲を使う近代捕鯨ではひとたまりもなく、乱獲によって、絶滅寸前となったのであった。沖縄に回遊してくるのザトウクジラも1960年前後の琉球捕鯨や北の海での捕鯨であっという間に捕獲数が激減した。1966年には世界中で全面捕獲禁止となった。捕鯨が禁止されてから10数年後の1980年代の初め頃から生息数の回復の兆しが見え始め、1990年代に入ると本種を対象とするホエールウォッチングが1〜3月の間、海のビジネスとして成立する位に出現数が増したのである。1990年から記念公園水族館が東海財団の助成金によるザトウクジラ生態調査を開始した。これは日本では初めての長期間の鯨生態調査である。ザトウクジラは尾びれの模様で個体識別ができる。1975年からの9年間の調査で280頭を個体識別することができた。
 また、1995年からの水族館の調査結果で沖縄に分布回遊するクジラ・イルカ類は26種が確認されている。沖縄海域の鯨類相の特長は、ザトウクジラが回遊してくることの他、コブハクジラ、カズハゴンドウ、ユメゴンドウ、シワイルカなどの南方系の種類の出現率が高いことである。ザトウクジラウォッチングの副産物としてシワハイルカ、オキゴンドウ、ハナゴンドウ、マダライルかなどに出会うチャンスもあり、少し遠出をすればマッコウクジラとの遭遇も期待できる。ザトウクジラウォッチングは現在の所、ケラマ諸島が中心であるが、回遊数が増してくれば、ウォッチング可能な海域が本島の観光中心地域沖合に拡大してくるのはそう遠い夢ではないであろう。


内田詮三氏プロフィール
1935年静岡県伊東市生まれ
1961年東京外語大学インドネシア学科卒業
1981年より国営沖縄記念公園水族館館長
1992年アリューシャン、1994年アラスカ
1995年アリューシャン及びアラスカでザトウクジラ調査を実施した。

学位/農学博士、沖縄のサメ・エイ類の研究による(東京大学)
学会/日本板鰓類研究会・アメリカ板鰓類学会・日本哺乳動物学会・アメリカ海生哺乳類学会


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