世界のダイバーにとって、ジャック・マイヨール氏は最高のカリスマだ。
彼は、科学的に不可能だといわれた100m以上の閉息潜水*を行い、限界の壁を、自らの身体と意志で打ち破ってきた。その一挙手一投足はダイバーたちを驚喜させ、科学者を驚嘆させた。
その一方で、誰よりもイルカと分りあえる人間として、海を愛する全ての人々の憧れを一身に集めている。
人類史上、最も海を愛し、最も真剣に海と向き合った人間の一人として、わたしたちが海を語る時、彼の言葉に耳を傾けないわけにはいかない。

美しい珊瑚礁の海は、沖縄の人々にとってかけがえのないものだ。それは誇りであ
り、信仰の対象でさえある。そして、現在、それは沖縄観光の主役でもある。
マイヨール氏は、日本の誇るこの海を何度も訪れている。その感想を聞きたい人は多いだろう。そして、好きな場所は?
まず切り出した質問に、意外にも彼はストレートに答えてはくれなかった。
『楽園をPRすると、そこが楽園でなくなってしまうんだ』
そう語る表情は、悲しんでいるようにも、怒っているようにも見えた。
かつて彼が過ごした楽園のいくつかは、彼を追ってきたマスコミのPRによって、多く
の人が訪れるようになった。結果、彼自身が愛した豊かな自然、人々の素朴さが失われてしまった、と彼は語る。
『あるがまま(Let it be)がいいんだ。
自然や、民宿や素朴な文化を、そのままにしておいて欲しい。
人間は、美しい風景に感動すると、しばしば、それがどうすればお金になるかを考えてしまう。それはとても悲しいことだ』
マイヨール氏は愛する景色が変わっていく様を見てきた。そのやりきれなさは、海を愛する者なら理解できるだろう。
多くの人にこの美しい海を見てほしい、しかし、多くの人が訪れることで、自然は破壊されていく。そのジレンマは、沖縄に限らず、海に限った話でもない。
世界の海を知るマイヨール氏だからこそ、その危機感は切実だ。
沖縄が、彼にとっての楽園であり続けるために、私たちは何をすればいいのだろうか。
このインタビューは、"観光"というテーマを超えて、海を愛する男の、未来のライフスタイルへの提案である。
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コラム:現在の閉息潜水の世界
マイヨール氏の後、閉息潜水の記録は更に伸び続け、現在は130m台の勝負に入っている。現在の世界記録保持者はウンベルト・ペリッツァーリで131m。彼も、沖縄(座間味島)とのつながりが深い。
この競技の基礎となっている科学理論の多くは、マイヨール氏の協力によるところが多い。
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