「陸域における自然環境の保全に関する指針」の概要
目 次
  1.1 沖縄島の自然環境
  1.1.1 沖縄島における特定植物群落
  1.1.2 沖縄島における特異な地形・地質
  1.1.3 沖縄島における文化財の状況
  1.1.4 貴重な動物種の分布
  1.2 各々の地域における「すぐれた自然」の概況 現在のページ

1.2 各々の地域における「すぐれた自然」の概況

  各々の地域における「すぐれた自然」の概況は以下の通りである。なお、下線は「天然記念物」、緑色文字は「特定植物群落」、えんじ色文字は「特異な地形・地質」を表している

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(1)奥 (2)与那 (3)楚洲 (4)仲宗根 (5)大宜味
(6)辺土名 (7)安波 (8)瀬底島 (9)名護 (10)仲尾次
(11)国頭平良 (12)高江 (13)名護南部 (14)瀬嵩 (15)天仁屋
(16)残波岬 (17)石川 (18)金武 (19)高志保 (20)沖縄市北部
(21)宮城島 (22)大謝名 (23)沖縄市南部 (24)屋慶名 (25)那覇
(26)与那原 (27)糸満 (28)知念 (29)喜屋武岬  

(1)奥
 辺戸石山には、本県で数少ない古生層石灰岩地帯の自然林があり、植物地理学上重要な植物の生育地である(「辺戸岳の古生層石灰岩地植生」)。また、辺戸集落の東側国道58号線沿いの標高120m付近には、「辺戸部落拝所のイタジイ群落」がある。
 辺戸岬から辺戸岳一帯には、古期石灰岩(古生代末の本部層と中生代前期の今帰仁層)、及び新期石灰岩(新生代第四紀の琉球石灰岩)からなるカルスト地形が発達している。辺戸岬一帯には、溝状のカレンやその複合形態のカレンフェルト、および小規模な溶食凹地(ドリーネ)が見られる。辺戸岳(辺戸御嶽)は、全体がカルスト搭状丘を呈している。その中央部は大規模なカルスト凹地になっており、その中に円錐丘が発達している。辺戸岳を中心とする古期石灰岩は、それより新しい地層である名護層(黒色片岩)の上にのし上げたようにして「辺戸断層」で接している(衝上断層と呼ばれる)。戻る
 
(2)与那
 この地域には、特定植物群落、特異な地形・地質は分布していないが、ノグチゲラ・ヤンバルクイナ等の貴重な動物種が確認されている。戻る
 
(3)楚洲
 西銘岳の標高250mから山頂部にかけてはシイ林に覆われており、沖縄県の固有植物種や生物地理学上貴重な種類も多く自生し、沖縄県の植物自然を代表する地域である(「西銘岳周辺のイタジイ林」)。普久川水系域は、東側は伊部岳、西側は照首山によって形成され、上流部は沖縄島を代表するイタジイ林によって占められ、沖縄県の固有種も自生する沖縄島北部の自然を代表する地域である(「普久川上流域の植生」)。伊部岳の斜面はイタジイを主構成種とする常緑広葉樹林によって覆われ、山頂部の風衝地はマテバシイの優占する群集であり、沖縄島固有の林分を成林させている(「伊部岳のイタジイ林」)。「伊江付近の海崖風衝植生」は、伊江付近の海崖よりの肩状部に成立する群落で、風衝地特有の偏状木が密生している。
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(4)仲宗根
 国の天然記念物にも指定されている「諸志御嶽の植物群落」「諸志御嶽の植生」)は、琉球列島の隆起サンゴ礁石灰岩地帯の代表的な森林であり、神域として古くから保護されてきており、隆起サンゴ礁石灰岩地帯の森林としては最もよく保存され、発達している。本部町辺名原の標高30m付近の断崖には、ソテツ群落がパッチ状に生育しており、これは本県の自然植生として貴重なものである(「本部町辺名原のソテツ群落」)。「今帰仁村上原の古生層石灰岩地の植生」は、古生層石灰岩を基盤にした低山性の立地に成林した常緑広葉樹林であり、良く保護されている。「本部町備瀬部落のフクギの屋敷林」のフクギは防風垣として植林されたもので、生長が遅く、長年月をかけて形成された屋敷林は容易に見あたらない。特に戦災によってそのほとんどが焼失し、また都市化によって著しく減少しており、本県の古い集落の景観を留めている数少ない地域である。リュウキュウマツ並木は、戦災や近年の開発の波によって殆どがその姿を消してしまったが、古い集落の代表的景観であり、島の生活と結びついた歴史を読みとる上で貴重な資料である(「今帰仁村仲原馬場のリュウキュウマツ並木」)。
 本部町の大堂から山里の一帯は古期石灰岩からなり、典型的な熱帯カルスト景観を見ることが出来る。数多くの円錐丘が形成され、円錐丘に狭まれた地形はポリエコックピットになっている。大堂には代表的なポリエの地形がある。植生も豊かで、見事な景観を誇っている。目良森(通称「本部富士」)も一つの円錐丘である。また、石灰岩堤は琉球石灰岩(新期石灰岩)に形成されているものが多いが、田真地原の石灰岩堤は古期石灰岩(本部石灰岩)の地層に形成されている(石灰岩堤とは、石灰岩台地の縁辺に形成された堤防状の地形である)。今帰仁村仲宗根の大井川河口部に石灰岩堤がある。また、大井川河口部は、三角江(エスチェアリー)と呼ばれる、海水が内陸部まで進入するラッパ(三角)状の河口部になっている。亜熱帯の沖縄では流入土砂が少なく、堆積が進まず、エスチェアリーが維持されている点が大きな特徴である。今帰仁村与那嶺の海岸の砂丘は、前面のサンゴ礁や砂浜と一体となって見事な海浜景観を見せる。海水浴場となっており、砂丘の背後には貝塚が位置している。
 その他、天然記念物として「天底のシマチスジノリ」「今泊のコバテイシ」「本部町大石原のアンモナイト化石」(県指定)、名勝として「今帰仁城跡」(県指定)がある。戻る


(5)大宜味
 古宇利島後原の標高10〜30m付近の断崖には、ソテツがパッチ状に生育しており、島の自然植生として貴重な群落である(「古宇利島後原のソテツ群落」)。大宜味村役場の南東約100mの谷間に大宜味御嶽があり、御嶽の後方北西斜面にビロウ林が生育する。このビロウ林は県の天然記念物に指定されており、沖縄島に成林するビロウ群落の中では規模が大きく、自然の状態が良く保存されている(「大宜味御嶽のビロウ群落」「大宜味御嶽のビロウ林」)。
 古宇利島は、上位面(100〜75m)、中位面(60〜35m)、下位面(30〜10m)の3段の海岸段丘からなり、古宇利島北海岸には連続して発達する更新世琉球石灰岩の円筒状空洞地形がある。これは、更新世後期に当時の海岸部に形成されたポットホールを原型とした地形であり、その後海面低下によりそれらの空洞に赤土が溜まり、その溶食により益々空洞が拡大していったと推察される。 戻る
 
(6)辺土名
 国頭脊梁山地の標高400m以上の雲霧帯にイタジイ林を中心とした自然林が生育しており、植物層が豊富であることや雲霧地域の植生として天然の状態で良く保存されていることは、本県では他に例がない(「与那覇岳・伊湯岳一帯の植生」)。このうち、沖縄島で最も高い与那覇岳を中心とする標高450m以上の山頂域約8ヘクタールは、国から天然記念物の指定を受けている(「与那覇岳天然保護区域」)。この区域は、湿潤でコケ・シダ・ランが特に多く、約380種の植物が生育し、沖縄島の固有種のヤンバルクイナなど多くの天然記念物の動物たちが生息しているが、その周辺は最近伐採が進みつつある。ネクマチヂ岳は古生層石灰岩を基盤とする標高360.7mの岩山であり、標高300m付近から上部の斜面にはヒメユズリハ・タブノキ・イスノキ等を主要構成種とする森林が生育している(「大宜味村ネクマチヂ岳の植生」)。比地集落の東側標高40mの尾根部にアサギと呼ばれる拝所があり、そこにはアカギの優占する群落が発達している。胸高直径90〜160cmのアカギが6本生育しており、このようなアカギ群は琉球列島ではまれであり、県の天然記念物に指定されている(「国頭村比地部落拝所のアカギ群落」「比地の小玉森の植物群落」)。謝名城集落の東方、標高約115mの山頂部に根謝銘グシクがあり、山頂部周辺に、クスノハカエデの優占する群落が発達している。クスノハカエデ群落は本県では少ないが、御嶽林として保護されている(「根謝銘城趾のクスノハカエデ林」)。
 国頭村辺土名の赤丸崎は陸繁島であり、辺土名と赤丸崎を繁ぐ砂州は、県内で最大のトンボロである。中央部(奥間集落の前面)は、形成過程の一時期に潟湖となり、後に次第に埋められ「奥間ターブックァー(水田地帯)」が生まれた。このトンボロの北側(桃原から兼久)に高度5〜8mの砂丘が広がっている。砂丘の表面は、一部に3〜4列の峰が存在するが、アダンやモクマモウで被覆され全体に固定化されている。
 その他、天然記念物として「喜如嘉板敷海岸の板干瀬」(県指定)がある。戻る


(7)安波
 普久川水系は、東側は伊部岳、西側は照首山によって形成され、上流部は沖縄島を代表するイタジイ林によって占められている(「普久川上流域の植生」)。普久川中流域の小さな滝壷をタナガーグムイと呼んでおり、その淀みの周辺は常に水飛沫を受け特殊な環境を作り、アオヤギソウ・ナガバハグマなどの特殊な植物が分布している。この周囲には沖縄島北部のシイ型の天然林に被われている狭谷群落などの分化も見られ、河辺には河辺群落の発達も見られ、国の天然記念物に指定されている(「安波のタナガーグムイの植物群落」「タナガーグムイの植物群落」)。安波川の河口近くには、樹高9m近いサキシマスオウノキがサガリバナとともに群落を成林させており、県の天然記念物に指定されている(「安波のサキシマスオウノキ」)。安田集落の海岸の浜堤に出来た海岸林は、国頭村指定の天然記念物であり、沖縄島に残る数少ない海岸林で、林冠部はアカテツが優占し、前縁のアダン群落によって保護されている(「安田のアカテツ保安林」「安田のアカテツの海岸林」)。安波集落の北東側海岸近くの拝所周辺にイタジイの優占する森林が生育する。高木層のオキナワウラジロガシは第二次大戦中に一度伐採されたことがあるが、その他は拝所として良く保護され、海岸近くの低地のイタジイ林として貴重なものである(「国頭村安波御嶽の植生」)。戻る

(8)瀬底島
 瀬底島北部の隆起サンゴ礁の海崖に成林したソテツ群落は、高さ1.5m内外で、低木層にはソテツが最優占するだけで他の出現種は少ない(「瀬底島北西部海崖のソテツ群落」)。古生層石灰岩地帯の低地部の天然林は、本県で数少なく、瀬底島では瀬底御嶽の拝所だけに残されているものであり、拝所として古くから保護されている(「瀬底島瀬底御嶽の植生」)。
 瀬底島の北部には、明瞭な海岸段丘が形成されている。戻る


(9)名護
 八重岳は沖縄島で4番目に高く、嘉津宇岳、安和岳とは峰続きであり、この一帯は県から天然記念物の指定を受けている(「嘉津宇岳安和岳八重岳自然保護区」)。このうち、嘉津宇岳と安和岳の中腹部から山頂にかけては、石灰岩地特有の地形をしており、その地形に成林したイスノキを主構成種に持つ群落がある。この群落は、古生層石灰岩地域の天然林として貴重であるとともに、植物地理学上貴重な植物も分布している(「嘉津宇岳・安和岳の古生層石灰岩地植生」)。「宮里前の御嶽のハスノハギリ林」は、県の天然記念物に指定されており、宮里集落の道路沿いに面し、その背後は砂浜であったが、埋め立てられ運動公園になっている。約1,262坪の面積に、ハスノハギリが太いもので胸高直径2mに及ぶ純林を形成しており、このハスノハギリ林は樹高及び幹の太いことでは沖縄島で最大のものである。「本部町渡久地点御願の御嶽林」は、石灰岩段丘上に位置する森林で、古くから町民に拝所として保護されてきた所であり、古生層石灰岩の自然林が生育している。
 八重岳、嘉津宇岳、安和岳などのピラミット状の孤立峰は、古期石灰岩からなるカルスト地形であり、峰の頂部は円錐丘を形づくっている。本部町の渡久地港に注ぐ満名川の河口部は、三角江(エスチュアリー)である。名護市屋部の集落は3列の堤州(砂州)の上に立地しており、海側の堤州の先端からは砂嘴が南東へ伸びている。塩川集落の小川はスーガーと呼ばれる海水で、海から数百メートル内陸の岩下から湧き出ている、外国にもあまり例がない珍しい川であり、国の天然記念物の指定を受けている(「塩川」)。川の中には、海産のエビ・カニ・魚が生息し、海産性のシオカワモッカ・アミアオサ・ホソアヤギヌなどが生息している。この内、シオカワモッカは国内ではここだけしかないと言われており、「塩川のカワツルモ」は塩川の流水中に生育する汽水性の植物群落である。
 その他、天然記念物として「東江の御嶽とミフクラギ」「屋部小学校のデイゴ」「済井出のアコウ」(名護市指定)がある。 戻る
 
(10)仲尾次
 呉我礫層は、本部半島の付け根の部分に分布し、固結度の弱い礫層で、千枚岩・結晶片岩の礫を主とする、層厚約70mの礫層である。礫は大きなもので直径30cmもあるが、多くは15cmほどの円礫である。羽地内海はリアス式海岸であり、大保川が流入している大宜味村の塩屋湾もリアス式海岸である。大宜味村津波から宮城島に伸びたトンボロ状のビーチロックがある。ビーチロックは通常、海岸に沿って現在の汀線付近にできるものであるから、このビーチロックの分布と形状は極めて特異である。
 その他、天然記念物として「名護のひんぷんがじまる」(県指定)・「屋我地小学校のアコウ」「大湿帯のオキナワウラジロガシ」(名護市指定)がある。戻る


(11)国頭平良
 東村慶佐次川河口付近は、マングローブ湿地であり、広い面積にわたってマングローブ林が発達し、岸に近い方から、オヒルギ林・ヤエヤマヒルギ林・メヒルギ林が生育している。この地域は、ヤエヤマヒルギの北限地であり、かつ群落として広い地域を占めていることや、メヒルギ林の発達が見られることから、国の天然記念物に指定されている(「慶佐次湾のヒルギ林」、「東村慶佐次川のマングローブ林」「慶佐次ヒルギ林」)。塩屋湾の北東側に面する田港集落の東方約100mの斜面に田港御嶽がある。標高3〜120mの斜面には古生層石灰岩特有の群落が発達している。沖縄県における古生層石灰岩地域の代表的植生として、国の天然記念物に指定されている(「田港御嶽の植物群落」)。
 国頭村平良の集落の東、福地川の河口には両側から伸びた砂嘴が見られる。砂嘴は季節的な変動(移動)があり、対岸に接合して河口が閉塞されることがある。
 その他、天然記念物として「サキシマスオウノキ」「千本ガジマル」(東村指定)がある。戻る

(12)高江
 この地域には、特定植物群落、特異な地形・地質は分布していないが、貴重な動物種として、オキナワトゲネズミ、ケナガネズミが確認されている。戻る


(13)名護南部
 恩納村名嘉真集落後方の山地は、イタジイ林を中心とした自然林が広い規模にわたって良く保存されている(「漢那岳の植生」)。許田集落の北方約400m地点の国道58号線沿いの斜面下部にヤエヤマネム群落が生育する。許田はヤエヤマネムの北限地である(「許田のヤエヤマネム群落」)。「許田のウバメガシ」は名護市指定の天然記念物であり、「許田の手水」の後方の森に生育する、樹高8m・胸高直径1mのウバメガシの老木である。許田はウバメガシの分布の南限地である。
 名護市喜瀬の南南東約1.3km、標高141mの山は、非石灰岩(砂岩)の地質にできた円錐丘である。名護市喜瀬の集落及び恩納村名嘉真の集落は2列の堤州(砂州)上に立地している。
 その他、天然記念物として「名護番所跡のフクギ群」(県指定)、名勝として「轟の滝」(県指定)がある。戻る  

(14)瀬嵩
  大浦川の河口には、メヒルギ林・メヒルギ−オヒルギ林・オヒルギ林が生育するマングローブ林がある。このマングローブ林は、沖縄島では慶佐次川のマングローブ林に次いで広い面積を有しているが、ヤエヤマヒルギを伴わない点で慶佐次川のマングローブ林と異なり、自然状態のままでよく保護されている(「名護市大浦川のマングローブ林」「マングローブ湿地」)。「大浦御嶽のイタジイ林」は、低地部に成林したイタジイを優占種とする常緑広葉樹林であり、御嶽林として保護されている。低地部に成林するシイ林は少なく、学術的資料として貴重なものである。
 嘉陽から底仁屋にかけて、古第三紀の嘉陽層の大規模な褶曲が見られ、これは名護市指定の天然記念物に指定されている(「底仁屋の褶曲」)。嘉陽層は砂岩・頁岩の互層からなり、地層の一部に横臥褶曲が見られる。安部崎から安部オール島・ギミ崎にかけては、沖縄島を胴切りする断層に支配されてできた岬と島であり、地形学的に見て興味深いものである(構造地形)。この様な断層に支配された直線的な谷として、辺野古の美謝川もある(構造谷、断層谷)。汀間川河口部に形成された堤洲(砂州)は、海岸側から浜堤・砂州・後背湿地の順に並ぶ沖縄島北部に典型的に見られる地形であり、後背湿地にはサトウキビ畑、砂州の上には碁盤目状に土地割りされた集落が立地し、屋敷を囲む防風林のフクギ並木も見事な景観を呈している。この様な砂州は久志においても見られる。
 その他、天然記念物として「底仁屋の御神松」(名護市指定)がある。戻る


(15)天仁屋
 天仁屋の砂泥互層の褶曲は、デコルマンより発生した衝上断層に伴う褶曲構造であり、天仁屋河口付近からバン崎に至る約2kmにわたる連続露頭で観察できる。戻る

(16)残波岬
 残波岬の北側は、高度34m〜37mの石灰岩からなる顕著な海崖であり、崖下にはノッチが形成されている。また、残波岬の南海岸には、礁原の石切場跡が残されており、歴史的遺物として貴重なものである。戻る
 
(17)石川
 県指定の名勝であり沖縄海岸国定公園の景勝地として有名な「万座毛」には、コウライシバ群落の広がる絶壁の上面にオキナワマツバボタン、海崖にハナコミカンボク・オキナワスミレ等の特殊植物が生育しており、県の天然記念物に指定されている(「恩納村万座毛の海崖植生」「万座毛石灰岩植物群落」)。
 万座毛の海崖は、断層崖に由来すると考えられており、崖の下部にはノッチサーフベチンが形成されている。伊波には、石川地峡を北西から南東方向に走る断層系に沿う、長さ約1.5km・比高20〜40mの石灰岩堤がある。この石灰岩堤の上には、国指定の史跡である伊波貝塚と伊波城址が立地している。真栄田岬から山田にかけての海崖は、沖縄島を胴切りにする断層に由来する、高度25m前後の海崖である。真栄田のビル原には、約3000〜4000年前に形成されたマイクロアトールのサンゴ化石群が点在している。このうちの一つのマイクロアトール化石は、ビーチロックによって覆われており、両者の形成時期の前後関係を示す貴重な地形である。戻る


(18)金武
 億首川の河口域にはヤエヤマヒルギ・オヒルギ・メヒルギを主体にしたマングローブ林が発達しており、ヒルギモドキ(北限種)・チャボオヒルギも自生する貴重な群落である。マングローブ林は河口域から左右の河岸に沿って発達している部分が多く、中州は面積が狭くなっており、河口近くには橋が架かりマングローブ林を二分している(「億首川のマングローブ林」「マングローブ湿地」)。漢那集落のヨリアゲの森は、アマミアラカシが優占する石灰岩を母材とした低木材であり、御嶽林として保護されている(「漢那御嶽のアマミアラカシ群落」)。また、この御嶽林の奥の方にはイタジイ林も接続しており、貴重な群落である。恩納村名嘉真集落後方の山地は、イタジイ林を中心とした自然林が広い規模にわたって良く保存されている(「漢那岳の植生」)。
 安富祖の堤州(砂州)は新旧二列の堤州であり、集落の立地する背後の堤州が古く、浜原集落の立地する堤州は新しい。いずれの堤州の背後も後背湿地をなしている。漢那の堤州(砂州)も、安富祖と同様二列の堤州からなるが、後背湿地は埋め立てられサトウキビ畑に変わっている。この様な堤州と後背湿地を流れる河川は流域面積が狭いことが特徴である。金武町並里の中心には県下有数の湧泉がある。地元では「ウッカーガー」と呼ばれ、石灰岩地域の典型的な湧泉(井泉)の一つであり、湧水量は一日二千トンに及ぶ。金武観音寺境内には鍾乳洞(石灰洞)がある。
 その他、天然記念物として「伊芸のガジュマル」「拝神場のアコウ」「観音寺のフクギ」(金武町指定)がある。戻る
 
(19)高志保
 読谷村都屋は読谷石灰岩の模式地であり、ここの採石場では新鮮な路頭を見ることができる。読谷石灰岩は、琉球石灰岩の中層(下層:那覇石灰岩、上層:牧港石灰岩)に相当し、多孔質で未固結な砕屑性石灰岩層と表層の礁性石灰岩層からなる。比謝川の河口部には、石灰岩地域を流れる河川沿いに分布する典型的な石灰岩堤がある。ここの地形は、今帰仁村の大井川沿いの石灰岩堤と類似している。戻る


(20)沖縄市北部
 知花城跡は標高100m内外の石灰岩塔上に位置し、展望台等も設けられているが、斜面部にはアマミアラカシ・ヤブニッケイを主体にした林分が発達している(「知花城趾の植生」)。伊良皆集落の北東に位置する御嶽林は、石灰岩段丘上に成林した常緑広葉樹林であり、アカギの大木が優占する数少ない群落である(「サンジャー森のアカギ林」)。
天願川は勝連半島から真栄田岬の方向に走る2・3本の断層に支配された構造谷であり、下流域は石川−天願を結ぶ断層に、中流域は仲泊−伊波城跡−安慶を通る断層に、上流域は真栄田−山城を結ぶ断層に、それぞれ支配されている。金武湾南岸の直線的な海岸線や、天願川上流域の長さ1km前後の石灰岩堤なども、この構造谷と平行に走っており、周辺の地形全体が断層系に大きく支配されていることが窺える。兼箇段・赤道・知花あたりには、標高70m前後、比高20〜30mの小規模な円錐丘が7つ連なり石灰岩丘群を形成しており、その頂部は琉球石灰岩で覆われている。この様な石灰岩丘群は、嘉手納基地内にも見られる。
 その他、天然記念物として「チャーン」(県指定)、「宇嘉手納拝所の大ガジュマル」「島袋家墓地の大デイゴ」「嘉手納小学校の大デイゴ」(嘉手納町指定)がある。戻る
 
(21)宮城島
 伊計島の南西部・小島状の突出部の伊計城跡周辺の森林は、ハマイヌビワ・リュウキュウガキ・クロヨナ等の優占する石灰岩地植生であり、植生がよく保存されている、石灰岩地の低木林として重要な森林である(「伊計城址の石灰岩地植生」)。平安座島のほぼ中央を東西に走る石灰岩の段丘崖の斜面に位置する森林は、クワノハエノキ・クロヨナが優占する、古くから拝所として保護されてきた貴重な天然林である(「平安座島東城の石灰岩地植生」)。
 宮城島は泥岩(島尻層)の上に琉球石灰岩が載る島で、島全体がメサ状地形を呈している。また、島の東部には大小6個のドリーネが見られる。戻る


(22)大謝名
 真志喜から大山にかけての一帯には、背後の普天間飛行場(石灰岩台地)を涵養域とする多くの湧泉(県指定名勝である「宜野湾市森の川」等)があり、大山の海岸湿地(標高0〜2m)の形成に寄与している。港川から伊祖・仲間にかけて、浦添城跡、伊祖城跡が立地する北西〜南東方向に延びる直線的な石灰岩堤が見られる。また、港川河口部には、直径50cm程度のポットホール状地形が数十個ある。比屋良川沿いには、琉球大学医学部手前まで断続的に続く石灰岩堤がある。真栄原には、ウバーレと呼ばれる標高50〜60mの石灰岩台地上の凹地が見られる。
 その他、天然記念物として「ウデナガサワダムシ(マヤーアブ内)」「大謝名メーヌカー淡水紅藻」(宜野湾市指定)がある。戻る
 
(23)沖縄市南部
 渡口集落北側にある、小さな谷間が複雑に入り込む稜線の斜面にある林分は、沖縄島では数少ない、タブノキが高木層で最優占する群落であり、沖縄島の低木林の自然植生を考える上で貴重な林分である(「北中城渡口谷間の植生」)。仲順集落の北側の拝所周辺には、アカギ・ホルトノキの大木と低地林が残っている。この周辺は殆どが開発が進んでいる場所ではあるが、御嶽林としてよく保護されている(「仲順御嶽の植生」)。山内区内の谷間群は、地形や地質が複雑であり、植物相も北部のシイ林要素と南部の石灰岩要素が混在する地域であり、植生も両地域の群落の構成種を混生させ、高木層にイジュ・ヤマモト等の優占する特有の群落を形成している(「山内地内の谷間の植生」)。北谷城跡には、ホルトノキの優占する林分、ヤブニッケイの優占する林分、オオバギの優占する林分が発達しており、御嶽林として保護されている(「北谷城跡の植生」)。 普天間川は、下流から中流にかけては沖縄島を胴切りにする断層に支配され、中流から上流にかけては島を縦断する断層に支配された、構造河川である。砂辺には石灰岩丘と呼ばれる、琉球石灰岩からなる円錐形の丘が数個分布している。中城城跡一帯には石灰岩堤があり、この上に県指定の名勝である「中城城跡」や萩堂貝塚が位置している。普天間川中流域には石灰岩堤が、普天間宮には鍾乳洞がある。戻る


(24)屋慶名
  勝連半島の南岸は、北岸とは対照的に高い丘と崖(断層崖)をなし、丘の縁には半島に平行して石灰岩堤が断続的に分布する。国指定史跡である「勝連城跡」はこの石灰岩堤上に立地している。平敷屋一帯では、再結晶が進んだきれいな石灰岩で、沖縄県下の代表的な石材であるトラバーチンを産する。
 その他、天然記念物として「内間のホウヤー木」(勝連町指定)がある。戻る
 
(25)那覇
 首里金城町の金城拝殿境内に生育する六本のアカギは、樹高15m内外、推定樹齢200〜300年、胸高直径1m内外、地際の根張りの様子や枝張りなど樹勢もよく、希に見る巨木であり、拝所として保護されているほか、国指定の天然記念物となっている(「首里金城の大アカギ」「首里金城町の大アカギ群」)。那覇市末吉の標高100m台の石灰岩段丘の南側斜面部に位置する植生は、那覇市に残された数少ない緑地帯である。この地域には末吉宮の他数多くの拝所があり神域とされている(「那覇市末吉の植生」)。サーザ森は国場川の河口域に広がる漫湖内に位置する標高30m内外の小さな岩礁であり、岩礁の周囲に上流からの泥土が堆積し1m内外の沖積地を形成しており、ナハキハギがこの沖積地を中心に岩礁上にも生育している。ナハキハギは沖縄島を分布の北限とするマメ科の植物ではあるが、県内でも自生地は少なく、これほどまとまって生育している所は珍しく貴重な林分である(「那覇市漫湖サーザ森のナハキハギ群落」)。
 与那原町大見武には、海底地滑りで生じた地層の変形である島尻層群のスランプ構造が見られる。首里赤平町の石灰岩堤は小規模のものではあるが、琉球王府の風水思想に基づく都市計画において「虎頭山」として位置づけられており、この石灰岩堤は末吉宮跡まで連続している。首里城跡の石灰岩堤は、規模が小さいものの、首里城や雨乞嶽など琉球王府時代の史跡が多く立地する重要な土地であり、首里最高峰の丘である弁ヶ岳は石灰岩丘となっている。南風原町本部などの沖縄島南部の島尻層(泥岩)が広がる地域には、泥岩の乾湿風化に起因すると考えられる盆状谷半円形谷頭が見られる。漫湖は潮間泥地であり、満潮時には湖のような景観を呈するが、干潮時には一面泥質地が広がる干潟となる。この干潟は国場川、饒波川から運ばれた泥が堆積してできたもので、厚い所で15m以上の軟弱層からなる。また、この干潟には、ポットホール状地形(生物地形)が見られる。山下町は那覇石灰岩の模式地である。また、山下第一洞穴は、琉球石灰岩の標高約40mの丘の北側斜面にある洞穴であり、鹿の角・骨製品・人骨などが出土した、重要な先史遺跡の一つである。小禄一帯には、小禄砂岩と呼ばれる砂岩が分布している。
 その他、天然記念物として「識名園のシマチスジノリ発生地」(国指定)、「仲島の大石」(県指定)、「内間の大アカギ」(浦添市指定)、「ガーナー森」(那覇市指定)、「南風原町間切番所跡のフクギ群」「喜屋武中毛小のガジュマル群」(南風原町指定)、名勝として「識名園」「伊江殿内庭園」(国指定)、「首里金城町石畳道」(県指定)がある。戻る


(26)与那原
 富祖崎公民館前広場の西側へ、護岸に沿って南側から流れ込む小さな流れ沿いには、流水中にはメヒルギ一種からなる植生が、陸化した部分にはハマジンチョウが群落を形成している。ハマジンチョウは県内では極めて少なく、群落を形成しているのはここだけである。また、中城湾に面した低地部でマングローブ林が残されている海岸部はなく、所々に点在してみられるだけであり、地域の潜在性を知る上で貴重な群落であり、県の天然記念物に指定されている(「富祖崎のハマジンチョウ並びにメヒルギ群落」「佐敷町富祖崎海岸のハマジンチョウ群落」)。県指定の名勝である「斎場御嶽」は古くからの拝所で、標高約70〜130mの斜面部に位置し、周辺部は多くの石灰岩塔が吃立する複雑な地形をしている。自生植物の中には、ミヤコジマハナワラビ・フラウン・ショウキランなどの貴重な種も見られる。植生は岩塔の上部は風衝性のオキナワシャリンバイ・ソテツなどが優占する矮性低木林が密生し、斜面部にはヤブニッケイ・ホルトノキなどが優占する高木林が発達している、地域の自然を代表する貴重な林分である(「斎場御嶽とその周辺部の植生」)。大里城跡の断層崖(特に南西部斜面)には、隆起サンゴ礁の断層崖とその基部の島尻層上に成林した常緑広葉樹林が生育している(「大里城跡の植生」)。
 与那原の北西にある運玉森は、標高158m・比高約60mの非石灰岩(砂岩)の孤立丘(円錐丘)である。知名崎のエビ養殖場内には、離れ岩で根本が波の浸食でくびれているキノコ岩があり、倉石と呼ばれている(離水ノッチ)。知念半島にある沖縄最高の御嶽の一つである斎場御嶽の中にある「キョウノハナ」と呼ばれる巨石は、断層地形であり、断層に由来すると考えられる巨大な岩体が滑り落ちて三角形のトンネルを作っている。与那原には、東側の中城湾と西側の東シナ海とを境する、標高10〜20mの低い高度で、その位置が中城湾側に異常に接近している分水界がある。
 その他、天然記念物として「大門のサキシマスオウノキ」「大殿内のサキシマスオウノキ」(知念村指定)、「オキナワヒメウツギ群落」(大里村指定)がある。戻る
 
(27)糸満
 潮平集落の西側の段丘には、低地部に成林した常緑広葉樹林があり、御嶽林として保護されている。(「潮平御嶽の御嶽林」)。
 与座岳は琉球石灰岩の台地で、若干南側が低く傾動地塊である。北側の崖は典型的な断層崖であり、この台地を遠望すると、台地の下部の島尻泥岩層と合わせてメサ状地形のような外観を呈しており、八重瀬岳も同様な地形をしている。与座岳の北西にある与座ガーは、天然の湧泉に石積みを施した名泉であり、水量が豊富で、糸満市の文化財に指定されている。また、大里集落の北端、南山城跡の東には、カデシガーと呼ばれる湧泉があり、古くから水の豊富なことで知られている。その他、キーザバンタ下には、海崖下部の琉球石灰岩と知念砂岩の不整合面から湧出する湧泉がある。この地域には、賀数から座波・兼城、真壁北〜宇江城、小波蔵〜南波平等の数多くの石灰岩堤が見られる。摩文仁丘南からサザンリンクスにかけては、沖縄島南部で最大・最長の石灰岩の海崖があり、崖下には離水ノッチが形成されている。報得川河口部には、ポットホール状地形と呼ばれる、泥質堆積物に見られる円形凹地がある。
 その他、天然記念物として「世名城のガジュマル」「当名のガジュマル」(東風平町指定)がある。戻る


(28)知念
 富里集落の背後から糸数城跡に至る断層崖に沿って成林する常緑樹林は、典型的低木林であり、沖縄島南部地域でもっとも広く発達した所である。(「富里、糸数城址の断層崖植生」)。
 玉城村前川の「玉泉洞」は、琉球石灰岩の中に形成された石灰洞(鍾乳洞)であり、洞穴内の水流は地表に出て雄樋川となることから、玉泉洞は雄樋川の地下河川の一部といえる。洞穴内には鍾乳石・石荀・石柱など様々な地形が見られ、玉泉洞一帯にはカルスト谷・天然橋など様々なカルスト地形が見られる。港川一帯では、牧港石灰岩と同時期の港川石灰岩と呼ばれる有孔虫殻を主体とする石灰砂岩(有孔虫石灰岩)を産し、石材として利用されている(粟石、港川石とも呼ばれる)。また、港川にある港川石灰岩の割れ目(フィッシャー)は、港川遺跡として知られた先史遺跡である。粟石の割れ目の赤土の中からイノシシ・シカ等の大量の動物化石とともに、1万8千年前の洪積世の人骨が発見され、港川人と命名された。日本ばかりではなく、東アジアの人類史を解く貴重な遺跡である。垣花には「垣花樋川」と呼ばれる、日本名水の一つである湧泉がある。また、仲村渠にも「仲村渠樋川」と呼ばれる湧泉がある(樋川とは、湧水を湧水口から筧・樋・溝で引いた井泉のことを意味する)。琉球ゴルフ場の地下には石灰洞が存在し、垣花や仲村渠の湧泉を含めて同地域の地下洞全体は「親々原ケイブシステム」と呼ばれている。喜良原には、比高15mの石灰岩堤があり、ここの土壌は高まりの部分で薄く、台地面では1mを超えている。具志頭城址下の海岸には芝生の生えた離水した礁原がある。ここには約6300年前以降の離水サンゴ礁(完新世離水サンゴ礁)が発達しており、所々には離水したキノコ岩(離水ノッチ)も見られる。
 その他、天然記念物として「イシキ浜植物群落」「新屋のサキシマスオウノキ」(知念村指定)がある。戻る
 
(29)喜屋武岬
 沖縄島の南端荒崎は隆起サンゴ礁からできており、飛沫帯から内側へかけて、イソフサギ群落・ウコンイソマツ群落・コウライシバーソナレムグラ群落・モンパノキークサトベラ群落・アダン群落などがそれぞれ帯状に分布している、数少ない隆起サンゴ礁海浜植生である。(「荒崎の隆起サンゴ礁植生」)。
 具志頭城跡から荒崎にかけての海岸部は、標高20〜35mの石灰岩からなる海崖であり、その一部に具志頭城跡が立地しており、崖下部にはノッチが形成されている。荒崎の西側の崖下には、通常のベンチ(波食棚)より高いサーフベンチが形成されている。束里から魂魄之塔にかけて、ほぼ東西方向に走る長さ2q余りの石灰岩堤がある。荒崎から魂魄之塔・米須にかけての海岸部には、沖縄島中南部を代表する海岸砂丘があり、米須砂丘と呼ばれている。この砂丘の標高は10〜15mであり、モクマオウを主体とする植生で覆われている。喜屋武岬には、約6000年前の完新世サンゴ礁が分布する。戻る



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